2025/06/13
治療内容
高齢者のインプラント治療・フラップレス・ガイデッドサージェリー(低侵襲なインプラント治療)期間
4ヶ月治療回数
12回費用
インプラント 242,000円(税込) ×6本
患者様は80代半ばの上下総入れ歯の患者様です。
ご主人と一緒にご来院され「入れ歯を何回か作ったが、なかなか合わず入れ歯は使っていない。いつも野菜やお肉を細かく切ってから料理して、丸呑みみたいに食事をしている。生きている間になんとか昔みたいに食事ができるようにできないか?インプラントを検討したい。」というものでした。
こちらが初診時のお口の状態となります。
こちらはレントゲン写真になります。
歯がある正常な方と比較すると下顎の骨が非常に細く吸収してしまっているのが分かるかと思います。
①治療計画
まずはご高齢で持病も多数あることから内科の主治医の先生と手紙でやり取りをして、全身状態について確認を行いました。
ご高齢ではありますが、インプラント治療が問題ないことが確認できましたので、CTを撮影してインプラントの治療計画を立てました。
歯が全くない方のインプラント治療は、以下の2つの方法があります。
<インプラントオーバーデンチャー:IOD>
インプラントを数本入れて、インプラントで入れ歯を固定する方法です。この方法のメリットは、以下のとおりです。
・インプラントを用いることで入れ歯が安定して外れにくくなる
・インプラントの本数が少なく済む
・費用を抑えることができる
・治療期間が短い
・お掃除がしやすい
・入れ歯が小さくなり違和感が少なくなる
またデメリットは入れ歯になりますので、入れ歯特有の違和感・装着感があることです。
<ボーンアンカードブリッジ>
オールオン4やオールオン6といったように多数のインプラントを埋めて、取り外しができない固定式のブリッジにする方法です。
この方法のメリットは装着感がほぼなく、元あった自分の歯のようになんでも噛める状態になることです。デメリットは以下が挙げられます。
・インプラントの本数が多く必要なこと
・費用が高額であること
・治療期間が長いこと
・お手入れが難しいこと
今回は骨も非常に痩せ細っており、患者様も大変ご高齢でした。
そのため大掛かりな外科処置は極力控えた治療方法が望ましいと考え、インプラントオーバーデンチャーにて治療を行なっていくこととしました。
また、上顎は極力手術時間を抑えるためにPCでシミュレーションを行い、サージカルガイドを作成して、インプラント治療を行う準備をしました。
こちらがPCでシミュレーションした画像になります。
こちらが『サージカルガイド』というインプラントをシミュレーション通りに正確な場所に固定するための道具になります。
②手術
まずは上顎の処置から入りました。部分麻酔を行いインプラント治療を行いました。
今回の患者様はご高齢であり、極力短時間で低侵襲のインプラント治療を行うため、サージカルガイドを用いてフラップレス(歯茎を切開しない方法での手術)で処置を行いました。
手術時間は1時間弱程度でほとんど出血もありませんでした。
こちらがインプラントを4本入れた術後すぐのお口の写真となります。
ほとんど出血がないのが分かるかと思います。術後は腫れや痛みもほぼ出なかったようです。
上顎が落ち着いたあたりで、今度は下顎のインプラント治療を行いました。下顎も上顎と同じようにサージカルガイドを用い、フラップレスで手術ができれば良かったのですが、下顎は外科処置の安全面を考慮して、切開を行いインプラント処置を行いました。
上下インプラントが入った状態のレントゲン写真になります。
③入れ歯の製作
型取りを行い、入れ歯を作成していきました。上顎は極力薄く違和感が少なくなるように金属床という入れ歯にしました。
下顎も金属床で製作しても良かったのですが、今回は調整のしやすいレジン床の入れ歯(プラスチックの入れ歯)にしました。
④コネクターと入れ歯のセット
上顎はマグネット(磁石)を用いてインプラントを固定する方法を選択し、下顎はロケーターを用いてインプラントを固定する方法としました。
ロケーターは聞き慣れない言葉かもしれませんが、お洋服やバッグなどに用いられているスナップボタン(ホック)のようなものになります。
こちらが上下の入れ歯を入れた写真になります。
丁寧に入れ歯の調整を行い、入れ歯の着脱の練習をしてもらい入れ歯をお渡ししました。
⑤入れ歯の調整
1週間ほど入れ歯を使っていただき、多少歯茎とぶつかる部分があったようなので調整を行いました。
治療後は今まで丸呑みしていた食事が、しっかり噛むことができるようになり、食べられるものが沢山増え、太ってしまったとご夫婦で大変喜ばれておりました。
また、入れ歯があるのとないのとでは全く顔つきが変わりますので、ご主人が入れ歯を入れた奥様の顔を見たとき、大変嬉しそうにしていらっしゃったのが印象的でした。
また、ご近所様でも歯に困っている方がいるとご紹介いただきました。
・予後を完全に保障するものではありません。
・インプラントは自由診療(保険外)での治療となります。患者様のお体や骨の状態によってはインプラント治療が困難な場合がございます。
・フラップレス(歯茎を切開しない)インプラント治療は適応ができるケースとできないケースがございます。
・インプラントもご自身の歯と同様に歯周病になる可能性がありますので、ご自身でのお手入れがとても重要になります。
今回のケースで特に意識をしたのは『100点満点の治療を目指さない』ということです。
初診でレントゲン写真を見たとき正直、骨も少なく、年齢や持病など全身的なことからインプラント治療をお断りしようかと思いました。
しかし、ご夫婦の真剣な希望や願いをお聞きし、歯科医師としてできる限りのことをしようと決心しました。
実際、多くの歯科医院では今回のケースはお断りされるかと思います。
患者様にはご年齢的なことや骨の状態などを詳しく説明し、『極力治療は低侵襲、手術時間は短く、60点以上の治療を目指す』ということを伝えさせていただきました。
ゴールはあくまでも患者様が入れ歯を用いて昔のように食事ができる状態にするということです。
症例の写真やレントゲン写真を他の歯科医師の方が見たら指摘する点は多々あるかと思います。
しかし、患者様はインプラント治療をして1年ほど経過しますが現在も入れ歯を快適に使用することができ、大変満足されております。
毎回ご夫婦で診療にご来院されお話を伺っていると、今回のインプラント治療を行なったことで、お2人の余生が大変豊かなものになったように感じます。
歯科医師から見ると決して100点満点の治療ではありませんが、患者様にとっては100点に近い治療となったのではないかと思っております。
今後も一人ひとりの患者様と真摯に向き合い、それぞれにあった治療プランのご提案を行なっていきたいと強く感じた治療でした。
当院では多数のインプラント治療を行なっておりますので、他院でお断りされた方なども、ぜひ一度ご相談にいらしていただければと思います。
今後も患者様の参考になるような症例を随時更新してまいります。
港南台パーク歯科クリニック院長 川又
こちらもご参照ください。
【症例】前歯の見た目を改善した入れ歯治療(ノンクラスプデンチャー・スマイルデンチャー)
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